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仙台高等裁判所 昭和25年(う)91号 判決

被告人

高橋正男

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台簡易裁判所に差戻す。

理由

弁護人遠藤周蔵の控訴趣意第一点について。

(イ)  原判決はその判示第二の事実として、菓子パン製造及卸小売を営む被告人が仙台ホテル営業所に対し三囘に亙りアンパン合計二千六百箇を、大柳一二に対し三囘に亙りアンパン合計三千箇を、孰れも昭和二十四年三月十七日物価庁告示第百六十二号に指定された統制額を超過して販売した旨摘示しているが、右アンパンの重量は之を何程と認めたものであるかは判文中何れの部分にも示されていない。ところが右アンパンは原判示告示に所謂「其の他の菓子」に該当するもので、該告示は統制額を正味百匁単位で定めているのであるから、原判示販売価格が統制額を超過したかどうかを判示するにはその重量を認定判示しなければならない筋合で、原判決の説明する所では結局本件販売にかかるアンパンの重量を知るに由なく、従つて原判示の販売価格が果して統制額を超えたかどうかは不明に帰する。(中略)次に原審はその判示第三において、被告人は前記告示指定の統制額を超過して販売する目的でパン百五十個を所持していた旨を判示している。ところがこのパンについても原判決中何れの部分にもその重量は示されず、かつ被告人が販売する考えでいたという価格が示されていない。百匁につき何程という統制額を超えて販売する目的であつたか否かを判示するにはやはり、何匁につき何程で売る考えであつたということが明かにされなければならぬ筋合である。

以上の次第で、原判決にはその第二、第三の判示事実について理由不備の違法があり、破棄を免れない、論旨は理由がある。

(ロ)  尚職権を以て調査するに、

原判決は其の判示第一の事実として、被告人が分密白砂糖一貫五百匁を昭和二十四年五月十一日物価庁告示第三百二号で指定された統制額より超過して氏名不詳者から買受けた旨摘示して居るけれども、同告示の定めている統制額は製造業者、食料品配給公団、卸売業者、竝小売業者の販売価格のそれのみであつて、これらの業者以外の者の販売価格の統制額は之を指定していない。しかも、右告示は、物価統制令第四条によるものであるから、同令第七条第二項を適用する余地なく告示に掲げた者以外の者がする取引についてその統制額を適用することはできないものである。従つて、右告示の統制額を適用するには、売主が同告示掲記の業者のいずれかに当るものであることを判示しなければならない。しかるに原審は右統制額を適用しながら、本件砂糖の売主が右告示掲記のいずれかの業者に当るという点については全然判示していない。原審がかくの如く判示した趣旨は売主が前記告示掲記以外の者である場合にも告示指定の統制額の適用を受けるという見解に立つものと推察されるがこの見解は誤りであることは前敍の通りで、原審は、畢竟この点の法令の解釈を誤つた結果理由不備の違法をおかしたものと認められる。原判決はこの点においても破棄を免れない。(本件砂糖の売主が右告示掲記の業者のいずれでもないということになつても、問題の取引については物価統制令第九条ノ二に該るかどうかを審究するの余地あり、この場合において、その取引価格が不当に高価であるか否かを判定するのに前記告示の統制額が参酌されることとなるべく、なおこの事実を物価統制令第九条ノ二に問擬するには訴因及び罰条を変更する必要があることはいうまでもない。)

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